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一杯のトマトスープ

2018年12月11日

皆さんは暖かい、と聞いてどんな場所を想像するだろうか?

 

暖かい季節、暖かい料理、はたまた、暖かい人柄、暖かい歌、そして暖かい宿。。。

 

暖かい、とは良い意味の言葉に違いないけど、実体の掴みづらい、曖昧な表現だと思う。

 

ノースキーを暖かい宿にしたいと思った時に、一つ思い出す出来事がある。

 

トルコのカッパドキア、という町を旅していた時の事。カッパドキアは奇妙な形をした岩が点在している町で、とても有名な観光地だ。

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奇異な風景は興味深く、散策に飽きる事はないのだけれど、乾いて荒涼とした景色はどこか寂しさを覚えずにはいられない。

 

季節は師走に近い真冬の事で、日も暮れかけて来たので、大都会のイスタンブールに戻る事にした。

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イスタンブール行きのバス停はすぐに見つかったけど、なんとバスが来るのは一時間半も後。空模様も怪しくなってきて、みぞれがぱらぱらと落ちて来る。強い風が薄っぺらいジャンパー突き抜けて、体温が奪われて行く。

 

たまらなくなって当たりを見回すと、遠くにぽつんと灯りをともしている家が見える。藁にもすがる思いで歩いて行くと、そこは一軒の小さなレストランだった。

 

窓から中を見てみると、暖炉があって、とても暖かそうだった。暖炉の脇の椅子に老人が座っていて、少し、うたた寝してる様子だった。

 

ドアを開けるとベルが小さく鳴った。老人はゆっくりと立ち上がった。

 

老人はしばらくの間、言葉もなく凍えた私の顔を凝視すると、何も言わずに厨房に入って行ってしまった。

営業時間外だったのかと、店を出ようとしたら、うしろから老人の呼ぶ声がした。

 

振り返ってみると、彼の手には、一杯のトマトスープが持たれていた。

 

促されるように私は暖炉の前の席に座り、暖かいトマトスープを飲んだ。たぶん、今まだ飲んだ中で一番美味しく、暖かいスープだった。

 

まだ注文をする前の事だ。

 

私はそれからトルコの伝統的な料理をいくつか注文した。どれも美味しかった。

 

食事の最中、私は時折厨房の中の老人に目をやった。老人は私と目が合うと、少し笑って、すぐに目をそらした。私たちに会話はなかった。

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窓の外の、荒涼とした奇岩達を眺めながら、私は今度いつトルコを訪れる事が出来るかな、と思った。 来年かもしれないし、これが最後になるかな、とも思った。

 

あれから十年以上たって、一度もトルコを再訪していない。

 

しかし京都で宿を営業している私は、今でも時々、あのトマトスープの事を思い出す。仕事に疲れて来ると、「カッパドキアのトマトスープ…」などと呟いてみる。

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